絵本「木のうた」。一本の木を通して四季の変化を感じましょう。文字なし絵本の紹介です。

ごきげんよう。

文字なし絵本の紹介です。

「木のうた」という絵本を知っていますか。
この絵本には文字がありません。

イエラ・マリ 作
ほるぷ出版 発行

イエラ・マリさんは、グラフィック・アートの面からすぐれた絵本を発表しているイタリアの作家です。
この「木のうた」のほか、「あかいふうせん」「りんごとちょう」など、いずれも文字のない絵本です。
芸術的に高い水準を保ちながら、科学性をも失わない知識絵本として、欧米でも高く評価されています。
<絵本の解説文より>

この絵本は、一本の大きな木を、見開きページの同じ位置に据えて、四季とともに移り変わる木そのものの姿と、小鳥や動物たちの生態を表現しています。

冬の枯れ木から始まります。雪の白と空の灰色と葉のない枝だけの黒い木。
地面は雪が融け、色づく草が生えます。土の中には小動物がまだ眠っています。
そして、次のページで目覚めます。

地面の雪はすっかりなくなり、若葉が出て、小動物は土から顔を出します。

鳥がやってきて巣づくりを始めます。ひなが生まれて成長していきます。
小動物はリスでしょうか。木に登っています。
木は葉がどんどん茂り、実をつけます。やがて紅葉します。
緑色だった全体も、地面は黄色になり、木は赤くなりました。
リスは木の実を運んで巣ごもりの準備をしているようです。
鳥たちは生い茂った葉の間から姿を見せていましたが、葉が落ちる頃、去っていきました。

そしてまた、冬が訪れます。
雪が降り始め、リスの穴には木の実がいっぱいです。
地面と木は灰色になり、少し残っている地面の草とリスだけに色がついています。
本格的な冬になりました。
最後のページは、最初のページと同じ色ですが、ひとつ違うのは雪が降っています。
木には鳥たちの巣のなごりが描かれています。全ページの木に描かれています。
きっとまた来年も鳥たちが戻ってくるのでしょう。

美しい色調とデザインが、ほんとに素敵です。

この絵本の好きなところは、
四季がはっきりと描かれているところです。
住んでいた北海道の小樽は冬には雪が積もり、四季がはっきりしていました。
小樽で仕事をしていた時、東京から来た営業担当の方が、四季のあるのが素敵ですよねと言ってくださり、自慢できることなんだと思ったことを今も覚えています。

雪の降る冬、新緑の春、生き物が活動する夏、紅葉の秋、そしてまた雪の降る冬。
言葉はなくてもいいのです。

この絵本は、
小樽絵本センターで児童文化を学んでいる時に購入した絵本ですが、
この絵本について学んだことは、次の内容になります。

第3回「就学前③(3~4歳)」の講座で取り上げられた絵本です。
講座の内容では、
3~4歳は、その前の母子同一性の時期から少しずつ変化し、自分と母親とは異なる、という感覚(距離感)が発生します。
母子分離の感覚です。
さらに自らの五感を通じた運動機能の発達や言語の発達も急速に進みます。
科学的な感覚の重要性もあります。
感覚的な特徴の中に日々の生活の繰り返しがあります。
「朝・昼・夜」は、日々繰り返される自然の摂理です。
この一日の積み重ねが一週間となり、一カ月となり、一年という時を刻みます。
季節感を加えれば「春夏秋冬」となり、それが繰り返されます。
この繰り返しの中で生きることを、わたしたちは生活と呼んでいます。
子どもたちの日々の生活は、このような循環性を実感することに大きな意味があります。
循環性とは、自然の摂理、つまり法則です。
この法則を言葉で臆するのではなく、心で実感していくことこそ、この時期の子どもたちの科学に相当するものなのです。
「木のうた」の絵本では、四季の変化が実に美しく巧みに描かれています。
その変化を素直に、読者に感じられる訳は、絵中の木の位置です。
どのページをめぐっても木の位置には変化がありません。
わたしたちが物事や時代の変化を感じ取るということは、わたしたちの無意識的なイメージのなかに、常に、変化しない何らかのイメージが存在しているから、変化というものの実態を感じ取ることができるのです。
「木のうた」の最後のシーンは冬の風景で終わります。しかし、このシーンは1ページ目のシーンと同じなのです。ですから、この絵本は、最後が再び始まりという自然の循環(摂理)を感じさせてくれるのです。

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