映画「スパイの妻」を観ました—ラブサスペンス映画。戦争、国家機密、夫婦愛。生きていたら先にある光にたどり着く。

ごきげんよう

映画「スパイの妻」を観ました。
タイトルからスパイ映画だと思って観たのですが、違いました。
戦争、国家機密、夫婦、愛、それぞれを「スパイ」という言葉のイメージから表現している映画でした。
主役は、タイトルが「スパイの妻」ですから、福原聡子(蒼井優さん)だと思います。そして、夫役の福原優作(高橋一生さん)がスパイ・・・ではなく、コスモポリタン、世界主義者でした。
戦争とか、国家機密とか、憲兵とか、拷問とか、そういうことは置いておいて、夫婦愛、妻の夫への愛、その部分を中心に観るかぎり見やすいラブサスペンス映画でした。

映画って、内容や展開が好きと思って気に入るもの、このシーンやこのセリフが好きと思って気に入るもの、出演者の演技がいいと思って気に入るものがありますが、この映画は蒼井優さんと高橋一生さんの二人の演技が素晴らしかったです。

[以下、ネタバレが含まれます]
あらすじ、解説は、Wikipediaから引用します。

太平洋戦争開戦を控えた1940年、福原聡子は、神戸で貿易会社を営む夫・優作と何不自由なく幸せに暮らしていた。国家総動員法下、貿易商という職業柄当局に目をつけられながらも、洋風の生活洋式で通し、舶来品を楽しみ、趣味の9.5mmフィルム撮影に興じたりと、時勢に頓着しない優作を、聡子の幼馴染である陸軍憲兵の泰治は快く思わない。
あるとき文雄を伴って満州に出かけ、予定よりも遅く帰国した優作の様子を、聡子はいぶかしみ、疑いを抱き始める。優作は、満洲で知った国家機密についてある計画を秘めていた。泰治が二人を追い詰めていく中、文雄の拘留をきっかけにすべてを知った聡子は、“スパイの妻”と罵られる覚悟で愛する夫と運命を共にする決意を固め、優作ですら予想もつかなかった変貌をとげていく。

『スパイの妻』(スパイのつま)は、2020年にNHK制作、2020年6月6日14:00 – 15:54にNHK BS8Kで放送されたテレビドラマ。黒沢清監督作品。2020年に劇場用映画として公開された。
<Wikipedia>より

1940年、神戸で貿易会社を営む優作は、赴いた満州で、恐ろしい国家機密を偶然知り、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとする。満州から連れ帰った謎の女、油紙に包まれたノート、金庫に隠されたフィルム…聡子の知らぬところで別の顔を持ち始めた夫、優作。それでも、優作への愛が聡子を突き動かしていく———。
すべての国民が同じ方向を向くことを強いられていた太平洋戦争開戦間近の日本。正義を貫くためには、誰かを陥れなければならない。愛を貫くためには、誰かを裏切らなければならない。正義、欺瞞、裏切り、信頼、嫉妬、幸福。相反するものに揺られながら、抗えない時勢に夫婦の運命は飲まれていく。昭和初期の日本を舞台に、愛と正義を賭けた、超一級のミステリーエンタテインメントが誕生した。
<公式サイト 解説>より

・キャスト
福原聡子:蒼井優  (妻役)
福原優作:高橋一生 (夫役)
津森泰治:東出昌大 (陸軍憲兵役、聡子の幼馴染)
竹下文雄:坂東龍汰 (甥)

・監督  黒沢清
・脚本  濱口竜介、野原位、黒沢清
・公開日 2020年10月16日

・感想① 蒼井優さん、高橋一生さんの演技がよかったです。
蒼井優さんは、無邪気なお嬢さんで夫を信じ支える妻役から、満州から戻った夫の不審な態度に違和感を覚えるのですが、夫から話を聞き、意識の変化とともに進んで夫に協力していきます。夫との共同作業に満足感を得、表情からは酔いしれているようにも感じられました。最後は日本を逃げ出す計画でしたが、憲兵に捕まりそこで狂気へ。
表情の変化が実にいいのです。また、早口でしゃべるのですが、そのセリフが明確に聞こえて、私の耳にもすーっと入ってきてこちらもいいのです。

高橋一生さんは、貿易商の賢いやり手な男で、優しい態度にも裏があるような、何を考えているか分からない感じの人でした。それが、目で表現されていて、とてもいいのです。

東出昌大さんの軍服姿もよかったです。始めは聡子(蒼井優さん)を慕っている表情をしていましたが、だんだんと憲兵の怖い顔になっていくその表情の変化はおぞましいです。

・感想② あのセリフがキーポイントだと思いました
この映画での一番のセリフは、最後に聡子(蒼井優さん)が病院の精神病棟にいて(たぶん)、知り合いの野崎医師(笹野高史さん)が面接に来た時に言うセリフだと思うのです。
なんとかしてここから出してあげますという野崎医師に
聡子「それには及びません」
野崎「ほぉ?」
聡子「いいのです。なんだかひどく納得しているのです」
野崎「納得と言うと?」
聡子「先生だから申し上げますが、私はいっさい狂ってはおりません」
野崎「はい」
聡子「ただ、それがつまり私が狂っているということなんです。きっとこの国では」

・感想② 結局ハッピーエンドでいいのでしょうか。
最後は大阪空襲のところで終わり、聡子は生きています。
夫の優作と日本を出る時、別々に行動をしていました。聡子は最後までいっしょに行動したかったのですが、優作の案に従いひとりアメリカ行きの船に乗りますが、日本を出る前に捕まってしまいます。なぜかというと、通報があったからです。たぶん優作からです。そして優作だけが日本を出国します。
聡子は、野崎医師に夫の優作のことについて、ロサンゼルス行きのアメリカの客船が日本の潜水艦に撃沈されたと聞きますが、今は信用できる情報などないということも言われます。

そして、映像ではなく字幕のみで、次の内容が出ます。
「1945年8月終戦。
翌年、福原優作の死亡が確認された。
その死亡報告書には偽造の形跡があった。
数年後、福原聡子は、アメリカに旅立った」

字幕が出る前、日本を逃げ出す計画までは別々の行動でも最後に出会えるのだと思って観ていたのですが、そうではありませんでした。
夫の優作は、聡子を裏切ったのでしょうか。
計画の失敗?二人が無事に助かる方法はこれしかないと優作は考えた?など、いろいろ思いました。
聡子の優作への愛は絶対のものだということは映像を観ていてよく分かりました。では、優作の方はどうなのでしょうか。
優作は、聡子を無邪気で可愛い女だと思っていて、自分がしようとしていることはとても危険なことなので巻き込みたくないと思っていたと思います。だから、アメリカへは自分ひとりで行くことにしたのではないでしょうか。それは裏切りではなく、優作の聡子への愛だと思うのです。

優作の死亡が伝えられましたが、死亡届に偽造の形跡があったようなので、聡子は優作が生きていることを信じ、再開することを信じて生きていたのかもしれません。
死んだことにしたことも、スパイの妻にならないようにした優作の作戦のようにも思います。
そして、聡子は、終戦後、アメリカに旅立ちます。きっと会えたと思います。
これは赤い糸です。
ということで、ハッピーエンドなのだと思いました。

この映画は、第77回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)をもらいました。
信じること、諦めないこと、生きていたら先にある光にたどり着くことを思わされた映画でした。
それと“利口バカ”になる大切さ。
なんか、いいなと思った映画です。

タイトルとURLをコピーしました