映画「PERFECT DAYS」の感想。—毎日繰り返される仕事、そんな日々の中に喜びを見つけながら生きる人生。とても素敵です。

映画「PERFECT DAYS」を観ました。

主演の役所広司さんが、第76回カンヌ国際音楽祭コンペティション部門で男優賞を受賞した映画です。
この男優賞は、日本人俳優としては、19年ぶり2人目とのこと。
映画の紹介で流れる映像は何回も観ていましたが、それはほんの一部だったようで、そこから想像していた内容もあったのですが、映画の内容は想像とは全然違うものでした。
役所広司さんが演じるのは、東京・渋谷で公共トイレの清掃員として働く平山という男性。
古いアパートで毎朝起きた後は、毎日同じように仕度をして仕事に出かけます。
そして、淡々と働く毎日です。
映画の前半は、その毎日の様子が繰り返されます。
ですが、その毎日は全く同じではありません。
役所広司さんの表情から毎日の変化が表現されます。
ストーリーの中では、役所さんの表情の変化、それと監督のこだわりがど~んと心に響きました。
全体映像がとても素敵で、芸術的で、見終わった後、心に残るのはその映像のすばらしさでした。
いい映画を観たと思いました。

映画の後半は、平凡な毎日に想定外なことが起きます。
同僚の恋人との関係に巻き込まれたり、妹の娘のニコが突然訪ねてきたり、
娘をむかえにきた妹に再会することになったり、行きつけのスナックのママの元夫が登場したり。

トイレ清掃も見ごたえがあります。
公共トイレですが、芸術的なトイレなのです。
いくつかのトイレが登場しますが、有名な建築家が手がけたトイレもあり、実際に利用してみたいと思わせるものでした。

そんなドラマの中に監督がこだわったのは、
「光」「音」「影」そして「音楽」。
それぞれについての感想の前に、映画の内容について書きます。

因みに、「PERFECT DAYS」は、「完璧な日々」を意味しているそうです。

[以下、ネタバレが含まれます]

あらすじは、公式サイトより引用します。

あらすじ
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、
静かに淡々とした日々を生きていた。
同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。
その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、
同じ日は1日としてなく、
男は毎日を新しい日として生きていた。
その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。
木々がつくる木漏れ日に目を細めた。
そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。
それが男の過去を小さく揺らした。

また、INTRODUCTIONには、次の様に書いてありました。

ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースと
日本を代表する俳優 役所広司の美しきセッション。
フィクションの存在をドキュメントのように追う。
ドキュメントとフィクションを極めた
ヴェンダースにしか到達できない映画が生まれた。
カンヌ国際映画祭では、
ヴェンダースの最高傑作との呼び声も高く
世界80ヵ国の配給が決定。

・キャスト
平山(役所広司)   公共トイレの清掃員。
ホームレス(田中泯) 公園に住み着いているホームレスの男。
タカシ(柄本時生)  平山の同僚。調子がよくいい加減な性格。
アヤ(アオイヤスダ) タカシの彼女。ガールズバーで働く女の子。
ニコ(中野有紗)   平山の姪。
ケイコ(麻生祐未)  平山の妹。裕福に暮らしている。
ママ(石川さゆり)  平山が行く居酒屋のママ。
友山(三浦友和)   ママの元夫。
竹ぼうきの婦人
神主さん
古本屋の店主
写真屋さんの主人
居酒屋の店主

・監督   ヴィム・ヴェンダース
・脚本   ヴィム・ヴェンダース 、 高崎卓馬
・エグゼクティブプロデューサー  役所広司
・公開日 2023年12月22日

・エンディングソング  milet 「Always you」

*その他の情報
第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞!
第47回日本アカデミー賞 最優秀監督賞・最優秀主演男優賞 受賞!
第96回アカデミー賞 国際長編映画賞 ノミネート!


私の感想は次の内容です。

・感想① 監督のこだわり その1「光」について
・感想② 監督のこだわり その2「音」について
・感想③ 監督のこだわり その3「影」について
・感想④ 監督のこだわり その4「音楽」について
・感想⑤ 映画の最後に書かれていた言葉 “KOMOREBI”

・感想① 監督のこだわり その1「光」について
平山(役所広司さん)は、日々、規則正しく、ルーティンをこなします。
アパートで一人暮らしをして、清掃員の仕事を淡々とやります。
そこには、孤独が感じられるくらいです。
ですが、ふとした時に向ける視線の先に「光」があります。
木々の枝や葉から溢れる“光”など。
その光は、“木漏れ日”といいます。
それを見る時の平山(役所広司さん)は、笑みを浮かべ、幸せそうです。
その表情を見ると、平山(役所広司さん)は孤独なんかではないと思えます。

平山(役所広司さん)の夢が登場します。
朝日、木漏れ日、街並みや公園、運転中の車のフロントガラスなどの光の屈折や反射。
ここに夢に出てくる過去の場面を重ねています。
場面ははっきりしたものではなく、モノクロ映像です。
神秘的でもあり、不思議でもあり、素敵な映像となっていました。

・感想② 監督のこだわり その2「音」について
映画は、乾いた葉がこすれ合う音から始まります。
続いて、竹ぼうきでお掃除している音がします。
その音で目がさめて起きる平山(役所広司さん)です。
竹ぼうきではいている音は、風情があり、趣があり、素敵な音です。
毎日、竹ぼうきでお掃除している音で目覚めるのです。

小鳥の鳴き声や風の音、雨の日の雨音、公園の子供の声、それとトイレ掃除の音もこだわっていると思いますし、そこには静かな、穏やかな空気が流れているのを感じました。

・感想③ 監督のこだわり その3「影」について
仕事の途中に見かける踊るホームレスの老人。
毎日なのか時々なのか、よく見かけるようです。
その姿を発見して笑みを浮かべる平山です。
老人は、身体をくねくねさせながら踊ります。
そして、そこには影が見えます。

行きつけのスナックのママの元夫が登場したあと、元夫と平山が会うのです。
元夫が言います「影って重なると濃くなるんですかね」と。
そして、二人の影を重ねてみます。その後、影踏みを始めます。

光にもこだわりがあり、影にもこだわりがあるようです。
木漏れ日の光と黒い影という対比に何か意味があるのでしょうか。
喜びと哀しみとか、現実と過去とか。
影はどういう意味があり、何を表現しているのか、結局分かりませんでした。

・感想④ 監督のこだわり その4「音楽」について
映画の中では、懐かしい音楽がいくつも流れます。
ロックやソウルミュージックです。
ザ・アニマルズ、ローリング・ストーンズ、ニーナ・シモン、など。

懐かしいと言うと好きでよく聴いていたように思われますが、聞いたことがある曲というのが本当のところです。
冒頭の「朝日のあたる家」は知っている曲ですし、ローリング・ストーンズも知っていますが、その他は、同様の曲を聞いたことがあるだけかもしれません。
1970年代、ラジオからなのか、兄の影響なのかわかりませんが、耳にしていた曲なのは間違いありません。
これは知ってると思った曲は、次のものです。

冒頭は、ザ・アニマルズの「THE HOUSE OF THE RISING SUN」
邦題『朝日のあたる家』
リリースは1964年。

同僚のタカシと別れ下北沢から家に戻る平山の車で流れる曲
(Walkin’ Thru the) Sleepy City   邦題『めざめぬ街』
ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)
  1962年にロンドンで結成されたイギリスのロックバンド。
  ロック界の最高峰に君臨するバンドです。
リリースは1975年。

エンディングは、早朝、車で仕事場に向かう平山がカセットテープで流す曲で、
Feeling Good フィーリング・グッド
ニーナ・シモン(Nina Simone, 1933-2003)
  ノースカロライナ州トライオン出身のアフリカ系アメリカ人歌手。
リリースは1965年。

・感想⑤ 映画の最後に書かれていた言葉
“KOMOREBI” is the japanese word for the shimmering of light and
Shadows that is created by leaves swating in the wind.
It only exists once, at that moment.

直訳すると、
「こもれび」とは、風に揺れる葉によって生み出される光と影のきらめきを表す日本語です。
それはその瞬間に一度だけ存在します。

「こもれび」は英語にない言葉で、一言で表すことができる英単語はないそうです。
日本独特の表現であり、美しい日本語のひとつなのです。

最後に
平山(役所広司さん)は、自分の仕事について何を思っているのか、どう思いながら仕事をしているのか、映画の中には出てこなかったと思うのですが、そこについては全く考える必要がないのだと思いました。
テーマはそこのところではなく、平山の仕事以外のところにあるのだと思います。

平山(役所広司さん)の平凡な日々の生活には、小さな喜びがたくさんありました。
毎朝アパートを出る時に空を見上げます。何かを感じるのか笑みを浮かべます。
また、平山は、平凡な毎日の中で、小さな喜びに満ちています。
車の中で聴く音楽(カセットテープに入っています)もそうですが、古本屋さんで購入する文庫を読む楽しみ、フィルムカメラで撮る木々なども。
また、神社の境内で見つけた木の芽を取ってきて育てています。
霧吹きで水をあげるのも朝の日課です。
いくつもの喜びを見つけながら、またそれに満たされながら生きているのです。

タイトルの「PERFECT DAYS」は、「完璧な日々」を意味するそうですが、完璧な日々は、他人が決めるものではなく、自分で決めるもので、平山の日々は完璧なのだろうなと思いました。

私も、朝起きたら、カーテンを開け、外の様子を見ます。
笑みは浮かべませんが、お天気や季節の変化を感じます。
散歩中なども同様で、私も面白いとか素敵とか思うものがあると写真を撮ります。
それが、平山と同じ喜びなのだと思いました。

一日を振り返り、私の喜びをもっと見つけようと思います。
また、笑みを浮かべる練習をしてみようかなと思ったのでした。

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